就業規則 ー その初歩、基礎 - 仙台の社労士事務所「豊田社会保険労務士事務所」

仙台の社労士事務所「豊田社会保険労務士事務所」

就業規則 ー その初歩、基礎

経営者の皆さん、総務・人事・労務の責任者の皆さんそして会社・団体などで働いている皆さん又退職した皆さん

「就業規則」って重要なものだと聞くことがあるけど、どういうものなのかもっと知りたい...概ねわかっているつもりだけどなにかとわからないことがある...また、初めて作ろうと考えているが...今ある就業規則を一部改訂しようと考えているが...全面的に作り直そうと考えているが...就業規則を改善してもらいたい...就業規則に問題があるのではないか...

などなどお考えでしたら、以下基礎的なことをご説明しますので、お目通し下さい。お役にたてれば幸いです。

就業規則を作ってみよう、改正してみよう、何とかしたいとお考えでしたら、また、いろいろわからないことがありましたら、そして、チャレンジしてみたが難しかった、などございましたら、どうぞお問い合わせ、ご連絡ください。

【注】

なお、就業規則とは、賃金・給与規程、退職金規程、出張旅費規程、育児・介護休業規程など別冊になっているものを含むものです。

【お願い】

以下は、専門家でない一般の方を念頭に置いて書いてありますので、できるだけその方々が一般に使うであろう言葉を用いて説明してあります。

ですから、法律用語や専門用語をそのまま使用していないことも多く、専門用語での厳密性は十分に満たしているとは言い切れませんが、全体を通して意味内容は間違っておりません(ただし、残念ながらあいまいさは残りますが...)。

専門家でない方が専門用語を用いないで基礎的なことを考えるにはお役にたつと考えています。

さらに専門的で詳細、厳密なことにつきましては、お問い合わせください。

一、我が国の就業規則

(1)労働基準法上の就業規則

労働基準法という法律で、「就業規則」というものについて、次のようなことを企業・団体の義務として定めています(違反に対しては刑事罰が定められています。)。


この就業規則は使用者自身がこれを守らなければならないものです。


なお、労働基準法というのは、憲法に基づいて、雇われて働く人(労働者)の働くための条件(労働条件)の最低基準(人たるに値する生活)に関することを定めた基本的な法律です。


以下、「労働基準法上の就業規則」に関する要旨を説明します。


① 規則の内容(規則に文書で書くべきこと)はどんなもの?

≪記載する事柄が法定されている≫

労働基準法で、就業規則には最低限下記に示すようなこと――一般的に労働条件と職場規律といわれる――を決め、これを書かなければならない、と義務付けられています(罰則付きの義務です。)。


≪労働基準法などの基準以下ではダメ≫

そして、その内容は労働基準法その他の法令で定められた基準以下ではダメです(その場合には、規定は無効になり法令に定める基準によることになるが、監督署から変更命令が出される。)。

≪労働組合との労働協約の優先≫

また、労働組合との労働協約があるときはこれが優先します。組合員についてはそれに反してはならないことになっています(反している場合は、就業規則の規定は無効になり協約に定める基準によることになります。)

就業規則に書くべきこと

事業主・使用者・企業・団体は、法律上(労働基準法)の義務(作成義務)として就業規則を作成するものです。

これは、企業が自ら守るべきものとしてその内容を成文化することを義務づけているものです。


ですから、手続きを踏んで形のうえで作成(届出)してあっても、実際には規定とは違った内容で実施したりあるいは規定すべき事項について規定せずに実行していたりしているような場合――実態に反した就業規則――は、基準法違反となり罰則の対象になりえます(情状はありますが)。

また、就業規則と異なる慣行あるいは労働基準法上規定すべき事柄であるが規定せずに使用者側の単なる慣行として行われているような状況がある場合、それらの全体を労働基準法上の「就業規則」ということはできないでしょう。

そのような場合には、労働契約法で規定している「労働契約の内容を定めるものとしての合理的内容の周知された就業規則」があるとは言えないでしょう。


なお、修業規則作成義務のあるのは、常時10人以上の労働者(従業員)を雇用・使用している場合に限定されています――なお、人数には非正規社員含み経営者含まず、人数は独立した事業所ごとにカウントします(ただし企業全体の人数との考えあり)。

もちろん10人に満たない場合でも、労働基準法に従って就業規則を作成することはできます。


③ 作成(変更)にあたっての労働基準法上の手続(義務)

  • a)従業員の意見聴取(監督署届出への意見書添付)

    事業場の全従業員(非正規の人を含み、管理監督者除く。)の代表者(少なくとも半分以上の者から意見を述べる代表者として民主的手続によって選ばれた者)あるいは過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合。)の意見を聴いたうえで作成(変更)する。

  • b)文書で定める。慣習や口頭ではダメ。
  • c)従業員にしっかり法定の方法で知らしめなければならない(周知) ⇒これによって効力発生
  • d)労働基準監督署(労働保護法の行政的監督機関)に届けなければならない。

(2)労働契約(雇用契約)と就業規則の関係

③ 労働契約法の規定

労働契約法という法律は、労働契約(雇用契約)と就業規則の関係に関して、下記のように定めています。


ただし、この規定すなわち『従業員代表の意見を聴くとはいえ使用者が一方的に決めることができるとされている就業規則の内容が労働契約の他方の当事者である労働者がそれに合意していなくて契約内容になるとの規定』については、多くの批判、問題提起や疑問が出されています。


また、労働契約法で言われている「就業規則」については、労働条件や職場規律に関する規定類で使用者が作成したものであれば、労働基準法で義務付けられた内容や手続(従業員代表の意見聴取、労働基準監督署への届出)は満たしていなくてもよいかということですが、法的な手続を欠くだけだから「就業規則」にかわりはないという面もありますが、果たしてそういうことで、労働契約法により労働契約の内容になるとされる合理的な就業規則としてどこまで適当かということになります。

ですから、就業規則をせっかく新たに作ったり変更したりするわけですから、法に従ってちゃんとしておいた方がよいし、10人未満の場合でも10人以上並みのことをしたほうがよいことになります。


  • ア) 労働契約の合意原則

    労働契約の基本原理である「合意の原則」の規定

    • (第1条)

      この法律は、労働者及び使用者の自主的な交渉の下で、 労働契約が合意により成立し、又は変更されるという合意の原則 ・・・・を定める・・・・

    • (第3条)

      労働契約は、労働者及び使用者が 対等の立場 における 合意に基づいて 締結し、または変更すべきものである。

    • 労働契約の内容についての労働者の理解と書面確認
      (第4条)
      • 使用者は、労働者に提示する労働条件及び労働契約の内容について、労働者の理解を深めるようにするものとする
      • 労働者及び使用者は、労働契約の内容(期間の定めのある労働契約に関する事項を含む。)について、できる限り書面により確認するものとする。
  • イ) 労働契約を結ぶときの労働契約(雇用契約)と就業規則の関係

    (第7条)

    • 労働者及び使用者が 労働契約を締結する場合 においては、
    • 使用者が 合理的な 労働条件が定められている就業規則を
    • 労働者に 周知 させていた場合には、
    • 労働契約の内容 は、
    • その 就業規則で定める労働条件による ものとする。
    • ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第12条に該当する場合を除き、この限りではない。
  • ウ) 就業規則の変更により労働条件を変更するときの労働契約(雇用契約)と就業規則の関係

    就業規則変更による労働条件変更の要件

    (第10条)

    • 使用者が 就業規則の変更により労働条件を変更 する場合において、
    • 変更後の就業規則を労働者に 周知 させ、
    • かつ、 就業規則の変更 が、
    • 労働者の受ける不利益の程度、
    • 労働条件の 変更の必要性、
    • 変更後の就業規則の 内容の相当性、
    • 労働組合等との交渉 の状況その他の 就業規則の変更に係る事情
    • に照らして
    • 合理的なものであるときは、
    • 労働契約の内容である労働条件は、
    • 当該 変更後の就業規則の定めるところによる。
    • ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第12条に該当する場合を除き、 この限りではない。
  • エ) 就業規則の定める基準に達しない労働契約を結んだ場合の労働契約(雇用契約)と就業規則の
          関係

    (第12条)

    • 就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、
    • その部分については、無効とする。
    • この場合において、 無効となった部分は、就業規則の定める基準 による。

② 裁判所(最高裁判所の裁判例)の考え方

最高裁判所は、秋北バス事件判決(昭和43年)というもので次のように述べています。これが現在の到達点とされています。


「多数の労働者を使用する近代企業においては、労働条件は、経営上の要請に基づき、統一的かつ画一的に決定され、労働者は、経営主体が定める契約内容の定型に従って、附従的に契約を締結せざるを得ない立場に立たされるのが実情であり、この労働条件を定型的に定めた就業規則は、・・・・それが合理的な労働条件を定めているものであるかぎり、経営主体と労働者との間の労働条件は、その就業規則によるという事実たる慣習が成立しているものとして、その法的規範性が認められるに至っている(民法92条参照)・・・・から、当該事業場の労働者は、就業規則の存在及び内容を現実に知っていると否とにかかわらず、また、これに同意を与えたかどうかを問わず、当然に、その適用を受けるものというべきである。」


この考えに関連して多くの判決が出され、また学者の賛否様々な見解が山ほど出ています。そして、労働契約法は、このような判例に従ったものであるとされています。

(3)我が国の就業規則に関する大まかな歴史

現在わが国で一般的に「就業規則」と呼ばれているものは、歴史的に発生し変化してきたものでこれからも変化していくものです。


我が国について歴史的に見てみると、就業規則の業務遂行における職場規律の面に着眼して封建的・家父長制的家族的な職場規律規定(専制的な掟)を就業規則の最初の表れととらえる考えもありますが、この時期においては労働条件は親方、企業経営者が封建的・身分的な支配関係により一方的に決める(例え成文化されていても)というものでしたので、労働条件の統一的・画一的な規定を定めた成文規則が存在していませんでした。


しかし、その後、生産手段の機械化、工場組織の発達、それに伴う労働の組織化・労働条件の斉一化均一化が進展するに伴い、企業は労働力の統一的把握のために必要な労働条件について統一的・画一的な規則を作る必要に迫られ、労働者に対する労務管理手段として専制的半封建的性格を持つ職場規律と労働条件規定が作られ実行されるようになりました。

そしてそれは、国が労働者保護の面から関与したとはいえ、また、若干労働者による家族主義的・生産協力的色彩の側面を持つ関与を認めるものがあったとはいえ使用者が一方的に作成し専制的性格を帯びるものでした(工場法、鉱業法で一定の就業規則規制をしていたとはいえ民主主義理念、労働者保護の面から全く不十分なものであった。)。


そして、戦後になって、他方で労働組合との労働協約によってまた労使協議によって労働条件・職場規律が定められていくことになる一方、国は労働基準法によって就業規則の作成、変更について労働者集団(労働組合、従業員代表)の意見を聴くべきことを定めるに至りました。

しかし、意見を聴くとは、協議や同意ではなく又これがなくても有効とされるものでありました。つまり、この程度の労働者の集団的な関与の下で使用者に一方的作成・変更権限を認めるという法制ができたということです。

そしてその後の歴史の中で、この法制を巡って労使間の紛争、問題が争われ、それにつれて裁判例が積み重ねられ、学説も発展してきましたが、それらを背景にして近年労働契約法が制定され、現在に至っています。


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